エメラルドは、春たけなわで夏も近づく5月にはぴったりの誕生石です。 王や王妃たちは、何世紀にもわたってこの人気の高い緑色の宝石を珍重してきました。 素晴らしい石を選ぶ方法を今回ご紹介します。

この記事の内容は次のとおりです。
エメラルドの宝石学的特徴
エメラルドの歴史と伝承
エメラルドの産地
注目すべきエメラルドの品質
エメラルドのお手入れとクリーニング


5月の誕生石:エメラルドの宝石学的特徴

エメラルドの緑色は、数千年にわたって他の緑色の宝石を測る基準となってきました。 エメラルドは、アクアマリンやその他の色の石も含む鉱物種ベリルのうちの、濃い緑色から帯青緑色をした変種でです。

エメラルドの色の原因となる微量元素にはクロミウム、バナジウム、鉄があります。 通常、クロムまたはバナジウムの含有量が多いほど、より鮮やかな緑色になります。 鉄の含有量が多くなれば、青の度合いが高くなります。 鉄の含有量が比較的多い場合、エメラルドは青みがかった緑となります。 鉄が比較的少なければ、この5月の誕生石はより澄んだ緑色となります。

エメラルドと、それほど高価でないグリーンベリルとの違いは、宝石の専門家の間で論争の的となっています。 業界の中には、クロムで着色されたすべてのグリーンベリルが5月の誕生石エメラルドであるとする人もいます。 しかしジェモロジストや宝石ラボ、そして大多数のカラーストーンの業者は、エメラルドの色が「淡すぎる」場合にグリーンベリルをエメラルドと呼ぶのは間違いであると考えています。「淡すぎる」ことの定義については、こうした人々の間でも見解の相違があります。GIAでは、ラボでグレーディングを行った比較用の石を使用し、緑色の濃さと彩度がエメラルドと呼ぶに十分であるかどうかを決めることにより、論争を解決しています。

石の中のインクル―ジョンが、ジェモロジストたちがこの5月の誕生石を愛する理由です。 コロンビア産のエメラルドには、三相インクル―ジョン と呼ばれる、興味深い、特徴的なインクル―ジョンが含まれていることがあります。これは岩塩の微小な結晶、液体、気泡から成っています。

最高品質のエメラルド結晶は頂部が平坦で見事な緑色六角柱で、ファセット石に匹敵する美しさです。

47カラットのエメラルド結晶の原石

47カラットのこのコロンビア、ムゾー鉱山産のエメラルド結晶の原石は、その美しさで色に関する論争をすべて解決してくれる。 写真:Robert Weldon/GIA。 提供: Jon Sigerman


5月の誕生石: エメラルドの歴史と伝承

エジプトのファラオからインカ帝国の皇帝まで、エメラルド は王族たちを魅了してきました。 クレオパトラはそのエメラルドへの情熱で有名で、王家の装飾品としてこれを使いました。 南米の植民地時代に作られた伝説的なアンデスの王冠は、スペイン人がこの5月の誕生石をいかに崇拝していたかを表す一例です。 伝説によれば、現在アタワルパ エメラルドと呼ばれる最大の石は、征服者フランシスコ・ピサロがインカ帝国最後の皇帝アタワルパから取得したものとされています。 スペインのガレオン船 Nuestra Señora de Atocha(ヌエストラ・セニョーラ・デ・アトーチャ)号 が現代になって発見されたことは、数世代にわたるハンターたちが沈んだ財宝を取り戻すためにはどんな苦労もいとわない、ということを示しています。

「エメラルド」という言葉は、緑の宝石を意味する古代ギリシャ語 smaragdosに由来します。 紀元79年のヴェスヴィオ火山の噴火で死亡したローマの著述家、 プリニウス・セクンドゥスはその百科事典的な著書、博物誌に「これよりも緑色のものは存在しない」と書いています。また彼は、この5月の誕生石には宝石をカットする職人を助ける癒しの力が備わっているともしています。「職人たちにとって、エメラルドを見つめることは最良の目の回復方法である。柔らかな緑色は疲れや倦怠感を癒し、取り除く。」緑色はストレスと目の緊張をほぐすと信じられてきたことが、今では科学で証明されています。

合計41.97カラットのエメラルドとダイヤモンドのネックレス

目を落ち着かせるこの美しいエメラルドのネックレスには、合計32.86カラットの52個のエメラルドと、合計9.11カラットの160個のダイヤモンドが使用されている。 写真:Robert Weldon/GIA。 提供: Ismael Daoud

またエメラルドには、魔法の力があるとも信じられていました。 舌の下にエメラルドを入れると、将来を見通すことができます。 5月の誕生石エメラルドは邪悪な呪文やコレラ、マラリアなどから守ってくれる、と信じる人々もいます。 そのほか、雄弁になれる、恋人の約束の真偽を暴く、などを信じる人もいます。

エメラルドは伝統的に、結婚20周年および35周年に贈られる宝石です。(日本では55周年のエメラルド婚式として知られています。)

アンデスの王冠には、24カラットのエメラルドのセンターストーンに加え、442個のエメラルドがセットされている

現在ニューヨーク市のメトロポリタン美術館に所蔵されているアンデスの王冠は、金のヘッドピースに目を見張るような24カラットのエメラルドのセンターストーンと442個のエメラルドがセットされている。 写真: Dr. E. J. Gübelin/GIA


5月の誕生石: エメラルドの産地

コロンビアは500年以上の間最高のエメラルドを産出し続け、これらは他の産地からの宝石をはかる基準となってきました。  コロンビアの3つの採掘場所、ムゾー、チボール、コスケスが特に注目に値します。 それぞれの鉱区で、色相のわずかに異なるエメラルドが見つかります。 各産地とも採掘される色には幅がありますが、一般的に言って、澄んだ、濃い色調の緑のエメラルドはムゾー産です。 より淡い色調と青みがかった緑のエメラルドはチボールと関連があります。 わずかに黄色がかった緑のエメラルドはコスケスで採掘されています。

38カラットのエメラルド群晶

この38カラットのエメラルド群晶はコロンビアのムゾー鉱山産。 写真:Robert Weldon/GIA。 提供: Ismael Daoud

4.50カラットの研磨済みエメラルド

コロンビアのチボールが、この4.50カラットのエメラルドの産地。 写真:Robert Weldon/GIA

 

88.4グラムのエメラルド群晶

この88.4グラムのエメラルド群晶はコロンビアのコスケス産。 写真:Robert Weldon/GIA。 提供: Gene Meieran

エメラルドはまた、ブラジルのミナスジェライス州でも発見されています。 この5月の誕生石を最も多く産出する採掘場所の一つが、高度化されたベルモント鉱山です。 カポエイラナはもう一つの重要な地域で、自営の鉱山労働者による、小規模の操業が主に行われている起伏の激しい土地です。

エメラルドの原石を持つ自営の鉱山労働者

エメラルドの原石を手にするカポエイラナ鉱区の自営の鉱山労働者。 写真: Eric Welch/GIA

5月の誕生石エメラルドはアフリカでも見つかっています。 ザンビアが主要な産地で、ンドラ地方制限区域の鉱山は、青みがかった緑で、より濃い色調のエメラルドを産出することで知られています。 パキスタンとアフガニスタンも重要な産出国です。

240カラットのエメラルドのドロップネックレス

このドロップネックレスの240カラットのエメラルドはザンビア産。 写真:Robert Weldon/GIA。 提供: Sanjay Chordia、BEACAB GEMS INC.


5月の誕生石:注目すべきエメラルドの品質

色: 5月の誕生石エメラルドで、品質の最も重要な要素は色です。 強い~鮮やかな度合いの彩度とミディアム~ミディアムダークの色調を持つ、青みがかった緑色から緑色のエメラルドの人気が最も高くなっています。 透明度の高いエメラルドは特に貴重です。

クラリティ: エメラルドには、一般的に肉眼で見えるインクル―ジョンが含まれています。 そのため、ジュエリーの専門家や一部の消費者はエメラルドにはインクルージョンが存在するものと理解しており、それを容認しています。 見た目にクリアなエメラルドは、とても希少なので特に価値があります。

エメラルドのインクルージョンは、苔や庭園のように見えると表現されることがよくあります。 そのためフランス語で庭を意味する「ジャルダン」と呼ばれることがあります。

カラーストーンでは、透明度とクラリティは密接な関係にあります。 このことは、特にエメラルドに当てはまります。 一般的に、高品質のエメラルドに見られるインクルージョンはジュエリーの専門家にも容認されています。 ですが、インクルージョンの数と性質が透明度とクラリティにマイナスの影響を与えている場合は、石の価値は大幅に下がります。

カット: エメラルドの結晶はカットが困難です。 ほぼすべてのエメラルドの原石にかなりのフラクチャー(亀裂と呼ばれることもある)があり、宝石のカット職人は、こうしたフラクチャーが完成品の外観に与える影響を最小限に抑えなければなりません。

こうしたエメラルドに本来ある亀裂が、他の宝石に比べてエメラルドが脆い理由です。 そのため、カッティング、研磨、セッティングの際に、または日常の不注意な着用によっても損傷を受けやすくなっています。
角を斜めにカットし、2面、3面、または4面の同心のファセット面を持つ、有名な長方形の「エメラルドカット」は、本来のエメラルドの結晶の形状と重さを最大化するものです。 このカットはまた、脆い角がファセットカットされ、プロングがより安全に留められることから、石を損傷から守るのにも役立ちます。

カラット重量: 成形加工されたエメラルドには、さまざまなサイズがあります。 美術館や個人のコレクションには何百カラットにもなるエメラルドがあります。 それとは反対に、1カラットのほんの僅か分しかない、極小さなエメラルドもあります。

6個のダイヤモンドのサイドストーン付き3.69カラットのエメラルドの指輪

6個のダイヤモンドのサイドストーンで囲んだ、この3.69カラットのエメラルドの指輪のようなエメラルドのジュエリーは、お手入れやクリーニングを十分に注意して行う必要がある。 写真:Robert Weldon/GIA。 提供: Ismael Daoud


5月の誕生石:エメラルドのお手入れとクリーニング

エメラルドの硬度はモース硬度スケールで7.5~8で、硬度10のダイヤモンドに比べ、ひっかき傷のできやすい石です。 5月の誕生石エメラルドは色とクラリティを向上させるために処理が施されていることがよくあります。 一般的な処理方法は次のようなものです。

  1. 染色: 色の薄い多孔質のエメラルド、またはフラクチャーの入ったエメラルドの色を強めるため、緑色に染色します。
  2. フラクチャーの充填: エメラルドの表面に達したフラクチャーを充填するために、オイル、ワックス、人工樹脂が使用されることがあります。 フラクチャーを目立たないようにし、見た目のクラリティを高めることが目的です。 充填剤の使用量は目立たない程度から多量までさまざまです。これらの材料は、安定性の度合いが異なります。

エメラルドには特別の配慮が必要です。高温、気圧の変化(航空機の客室など)、刺激性の化学物質などにさらすことは避けてください。 エメラルドを超音波洗浄器に入れることは決してしないでください。 充填されたエメラルドも、皿洗いの際にお湯にさらされることにより損傷することがあります。

5月の誕生石エメラルドは、そこここで芽吹く生命を謳歌するのにふさわしい宝石です。 あなた自身、または大切な人に、この季節の豊かさをとらえたエメラルドを贈るのもよいでしょう。 エメラルドの購入ガイドで、美しいエメラルドの選び方について詳しく学びましょう。